欧米では、企業が従業員を解雇するときに、レイオフという言葉を使うことがあります。日本ではあまり馴染みがある言葉とは言えず、外資系企業に勤務をしている人や海外のニュースや映画・ドラマをよく見ている人でなければ、レイオフという言葉を知らないということもありえるでしょう。今回の記事では、そんなレイオフの意味や解雇・一時帰休との違い、日本の法律における扱いなどを解説していきます。

レイオフの意味

レイオフ(layoff)とは、景気後退などの要因で業績が落ち込んでしまった企業が、再雇用を前提に従業員を一時的に解雇することです。レイオフにより一時解雇された従業員は、再雇用されるまで収入源を失うことになるので、パッケージという給与3~6ヶ月分の特別退職金が支払われるというのが一般的な慣習です。従業員は、パッケージを受け取る代わりに、退職合意書への署名押印を求められます。退職合意書には、従業員が企業に対して訴訟を起こさないという文章が書かれており、署名押印をすれば従業員はその内容を受け入れたということになります。

パッケージを受け取れば、従業員は当座をしのぐことが可能です。しかしながら、そのお金が尽きるまでに再雇用されることは確約されていません。そのため、今後の生活を考えた従業員は、職探しを始めます。従業員が再就職した後、レイオフを行った企業が経営の立て直しに成功したら、去った従業員を呼び戻そうとするでしょう。そのときに、元の職場よりも新しい職場を選ぶ従業員もいます。

なお、一時解雇という意味で使われているレイオフも、近年のアメリカ社会、特にIT系の企業ではリストラと同様に通常の解雇という意味で使われることが増加しています。再雇用を期待できないレイオフであった場合、気持ちを切り替えて新たな職場を探さなければいけません。

レイオフの目的・メリット

業績が落ち込んだときにレイオフをするのは、人件費の節約が目的です。レイオフをすれば、再雇用をしない限り企業が給与を支払う必要がなくなるので、大幅に人件費を節約できます。浮いた人件費は、経営を立て直す資金に充てることで改善を図ることができるでしょう。この場合、通常の解雇ではなく一時解雇にしておくことのメリットは何かというと、優秀な人材の流出を防ぐことです。

優れた技能を持つ技術者や経験豊富な営業マンなどを人員整理の対象にしたとき、通常の解雇であればライバル企業に転職してしまう恐れがあります。そうなれば、ライバル企業との競争に打ち勝つことが難しくなりますし、若手を育成する指導者が足りなくなり今後の成長も期待できないでしょう。また、対象者の持つ技術や経験の中には、解雇をした企業で培われた独自のものもあります。その技術や経験は貴重な財産であり、解雇をきっかけとして外部に漏れることがあれば大きな損失です。これらのリスクは、再雇用で優秀な人材の流出を防げるレイオフであれば回避できます。

レイオフと解雇の違い

欧米や外資系企業でよく使われるレイオフですが、一時解雇ですから解雇の一種と言えます。しかしながら、日本においてイメージされる解雇は、レイオフとは異なります。日本における解雇とはどのようなものかというと、「懲戒解雇」「普通解雇」「整理解雇」という3種類に分類できます。レイオフと同じく人員整理という意味で使われるのは、「整理解雇」です。レイオフと「整理解雇」は企業が苦しい時に人件費を削減するために行うという共通点がありますが、レイオフが再雇用を前提としているのに対して、「整理解雇」は再雇用を前提としてないというのが大きな違いです。そのため、「整理解雇」の対象者は、経営状態が改善したとしても元の職場に戻る見込みはありません。

レイオフと一時帰休の違い

レイオフに似た制度として一時帰休があります。一時帰休は、経営が悪化したときに企業が人件費を削減するべく従業員を一時的に休業させることです。労働基準法第26条にある「使用者の責に帰すべき事由による休業」すなわち企業側の都合で取らせた休みに該当します。レイオフと一時帰休は、雇用契約があるのかどうかが大きな違いです。レイオフは、再雇用されるかもしれませんが、ひとまず雇用契約は終了します。一方で、一時帰休は雇用契約を結んだ状態で休業させるので、企業と従業員の関係は切れません。雇用契約があるので、休業期間中は企業が平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。

日本でレイオフは可能なのか

労働法などの日本法律には、一時解雇を規定する内容が盛り込まれていません。規定する内容がないということは、日本においてレイオフが禁止されていないということを意味します。しかしながら、無制限にレイオフができるというわけでもありません。レイオフは経営の悪化などを理由にした解雇ということで、「整理解雇」の一種という扱いになり、「整理解雇」のルールに従って行うことが求められます。「解雇整理」のルールとは、「人員削減の必要性」「解雇回避努力」「人員選定の合理性」「手続きの相当性」の4要件を満たすことです。もし、4つの要件を満たさずにレイオフを行えば、解雇権の濫用となり解雇が無効となります。

4つの要件を詳しく見ていくと、「人員削減の必要性」は経営の悪化などの理由で人員削減が必要であることを明らかにすることです。経営者の感覚で業績が落ち込んだと言っても、それでは不十分です。企業の資産や売上などのデータを根拠として、客観的かつ具体的に経営の悪化と人員削減の必要性を証明しなければいけません。続いて「解雇回避努力」ですが、レイオフを行う前にできる限りのことをするということです。例えば、関連会社への出向や希望退職者の募集などで大幅な経費削減ができれば、レイオフをせずに済む可能性もあります。それでも従業員に与える影響はありますが、解雇という最終手段と比べれば影響の程度は少ないです。

「人員選定の合理性」は、対象者の選定に合理性をもたせることです。一部の人間が、自分の雇用を守るために誰かを犠牲にすることは許されません。担当している仕事や成績、年齢や家族構成等のあらゆる条件から、公平・公正に対象者の選定をすることが求められます。最後の「手続きの相当性」は、解雇に当たって必要な順を踏むことです。解雇前に労働組合や従業員に対して、一時解雇の必要性や時期や規模などの内容を説明し、必要であれば協議・交渉なども行います。一方的にレイオフを通告し、労働組合や労働者から話し合いを求められても、無視するような不誠実な態度は認められません。

「整理解雇」の4要件を満たせばレイオフができるということですが、それには相当な手間がかかります。経営が悪化して余裕がない状況で、4要件を満たすべく必要な準備・手続きをするのは難しい話です。このように「整理解雇」の4要件が足かせとなり、日本ではあまり普及していなかったレイオフですが、今後は変わる可能性もあります。日本では、雇用の流動性を高めるべく様々な改革が行われており、「整理解雇」の4要件についても緩和や撤廃される可能性が否定できません。

アメリカでは、期間の定めがない雇用契約で働く労働者はいつでも自由に解雇できるという随意雇用原則があるので、レイオフがしやすくなっています。随意雇用原則をそのまま日本に持ち込むことは難しくても、それに近い規制緩和・撤廃が行われたら、これまで以上にレイオフをしやすくなるでしょう。企業の経営者や人事担当者は、そうした動きが起きる可能性を考えて、情報収集を怠ってはいけません。

日本におけるレイオフの現在と将来

レイオフとは、経営が悪化した企業が人員削減のために再雇用を前提とした一時解雇を行うことです。「整理解雇」や一時帰休に似ていますが、その仕組みは異なります。日本におけるレイオフは、「整理解雇」の4要件を満たさないと無効になるので、外資系企業でも容易に実施できません。しかしながら、規制緩和・撤廃される可能性も否定できないので、世の中の動きを注視しておきましょう。

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