春を迎え、多くの企業において新入社員を迎える時期となった。この時期になると、「Z世代の育成」というテーマがあらためて注目される場面も多い。主体性が弱い、指示待ちである、打たれ弱い——こうした評価を耳にする機会もあるが、一方で、デジタル活用能力や共感力、情報収集のスピードといった強みがあるとも言われている。
一方で、こうした特徴は個人の性格だけでなく、これまでの教育環境や社会背景の影響も大きいのではないかと感じる場面がある。特に大企業(1,000名以上)のように、配属が分散し、育成が現場任せになりやすい環境では、前提のズレが「指示待ち」「挑戦しない」といった評価につながりやすいのではないだろうか。
これまでの世代に対しても「最近の若者は」という言葉は繰り返されてきたが、Z世代は教育制度の変化と重なる中で育ってきた世代である。そのため、従来の価値観や育成方法を前提に評価すると、うまく噛み合わない場面も生まれるのではないかと感じている。本稿では、自身の実感も踏まえながら、Z世代がどのような教育環境で育ってきたのかを整理し、企業(特に人事・育成担当、配属先マネージャー)が「どのように育成を設計し直せるか」を考えてみたい。

「ゆとり教育」と学習観の変化
Z世代の多くは、「ゆとり教育」から「脱ゆとり」への移行期に教育を受けている。ゆとり教育では、「生きる力」の育成が掲げられ、従来の知識詰め込み型から思考力や主体性を重視する教育へと変化したとされている。
総合的な学習の時間などを通じて、「自ら考えること」が求められるようになった一方で、実際には「何をどう考えればよいのか分からない」と感じる場面もあったのではないかと考えられている。
自分自身の経験を振り返っても、「自由にやっていい」と言われたときに、かえって正解を探してしまう感覚は少なからずあったように思う。そのため、結果として「評価される答えを考える」という姿勢が身についた部分もあるのではないかと感じている。
こうした経験は、社会に出た後も「まず正解を知りたい」「評価基準を知りたい」という意識につながっている可能性がある。
評価環境の変化と失敗への意識
Z世代は、学校生活の中で評価に触れる機会が多い環境で育ってきたと考えられる。通知表や内申点といった従来の評価に加え、SNSなどにおける「いいね」やフォロワー数といった形で、日常的に評価が可視化されている。
こうした環境の中では、「評価されること」が当たり前になり、「評価を下げないこと」を意識するようになるのも自然な流れではないかと感じる。学校においても減点方式の評価が多いとされており、「失敗しないこと」を重視する行動が強化されやすい。
実際に、発言や発表の場面で「間違えるくらいなら発言しない」という選択をしてしまうことは、多くの人が経験してきたのではないだろうか。このような経験が積み重なることで、「まずは安全に進めたい」という意識が強くなるのではないかと考えられる。
企業において「もっと挑戦してほしい」と言われる場面もあるが、その前提として「失敗しても大きく評価が下がらない」という安心感があるかどうかは、行動に大きく影響するのではないかと感じている。のではないかと感じている。特に大企業では等級/評価/報酬/コンプライアンスなどが明確な分、「一度の失敗が不利に働くのでは」という不安が強くなりやすい点も意識する必要がある。
デジタルネイティブと学び方の変化
Z世代は、インターネットやスマートフォンが身近にある環境で育ってきた世代である。分からないことがあればすぐに検索し、必要な情報を短時間で集めることができる点は、大きな特徴の一つだと感じる。
自分自身も、業務の中で分からないことがあった場合、まずは調べてから動くということが多い。このような情報収集のスピードは強みである一方で、全体像をじっくり理解することや、長い文章を読み込むことについては、意識的に取り組む必要があるとも感じている。
また、日常的に即時的なやり取りに慣れているため、フィードバックが早く返ってくる環境の方が安心して行動できると感じる場面も多い。企業においても、こうした特性を踏まえた関わり方が重要になるのではないかと考えられる。
協働学習と関係性の重視
近年の教育では、グループワークや協働学習の機会が増えている。その中で、他者と協力しながら成果を出す経験を多くしてきたと感じている。
その一方で、意見の対立があった場合に、強く主張するよりも全体のバランスを優先する傾向もあるように思う。
企業においては、こうした傾向を「消極的」と捉えるのではなく、「関係性を重視している」と理解することも必要なのではないかと感じる。そのうえで、意見を出しやすい環境や、建設的に議論するためのサポートがあることで、より良い成果につながるのではないかと考えられる。
保護的環境と自己効力感
Z世代は、比較的保護的な環境の中で育ってきたとも言われている。大きな失敗を避けるような配慮がなされることが多く、挑戦する機会が限られていた面もあるのではないかと考えられる。
内閣府の調査では、日本の若者は自己肯定感はあるものの、自己効力感には課題があるとされている。自分自身を振り返っても、「やってみたい」という気持ちと同時に、「うまくできるだろうか」という不安を感じる場面は少なくない。
そのため、新しい業務に取り組む際には、小さな成功体験を積み重ねることが重要であると感じている。少しずつ「できる」という感覚を持てることで、次の行動にもつながりやすくなるのではないだろうか。
Z世代育成におけるマネジメントの再考
ここまでZ世代の特徴や背景について整理してきたが、実際に企業の中で働く立場として感じるのは、「育成の前提が世代によって異なっているのではないか」という点である。
入社して間もない立場として、業務に取り組む中で感じたのは、「まずやってみてほしい」という期待と、「どのように進めればよいのかを知りたい」という自分自身の感覚との間に、少なからずギャップが存在することである。これは主体性がないというよりも、不確実な状況に対して、最短で適切に進めたいという意識の表れであると感じている。
そのため、業務の背景や目的、期待されているアウトプットのイメージが共有されることで、行動へのハードルが下がり、結果として主体的に取り組みやすくなると感じる場面が多い。こうした経験から、育成においては単に業務を任せるだけでなく、「意味づけ」を伴った関わりが重要であると考えられる。
「納得感」が行動を左右するという実感
日々の業務の中で強く感じるのは、「納得しているかどうか」が行動の質に大きく影響するという点である。指示された内容に対して、その目的や背景を理解できている場合には、自分なりに工夫しながら進めることができる。一方で、意図が十分に理解できていない場合には、必要以上に慎重になったり、確認が増えたりする傾向がある。
これは自分自身に限ったことではなく、同世代のメンバーにも共通する傾向のように感じられる。情報へのアクセスが容易な環境で育ってきたからこそ、「なぜそれを行うのか」を自然と考える習慣が身についているのではないかと思われる。
そのため、企業における育成においては、業務の進め方だけでなく、その背景や意図を共有することが重要であると考えられる。納得感があることで、単なる作業ではなく、自分の成長や組織への貢献と結びつけて捉えることができるようになる。
また、納得感を高めるためには、精神論ではな「任せる際に最低限共有する情報」を型にしておくことが有効だと感じる。例えば、以下のような要素が揃うだけでも、確認の回数や手戻りは減り、動きやすくなる。
- 目的(なぜやるのか)
- 期待アウトプット(完成形のイメージ、例)
- 判断基準(何をもってOKか、優先順位)
- 制約条件(期限、参照すべき資料、関係者)
- 相談タイミング(どの時点で相談すべきか)
学びやすさと安心感が行動を引き出す
入社後の経験を通じて、もう一つ感じるのは、「学びやすさ」と「安心感」が行動に大きく影響するという点である。例えば、業務の進め方が整理されていたり、過去の事例やナレッジが共有されていたりする場合には、初めての業務であっても取り組みやすくなる。
また、分からないことを質問しやすい環境や、途中経過を共有しやすい雰囲気があることで、不安を抱え込まずに行動することができる。逆に、失敗を過度に恐れてしまうような環境では、どうしても慎重になりすぎてしまい、行動が遅れてしまうと感じる。
このような経験から、個人の努力だけでなく、組織として学びを支援する環境づくりが重要であると実感している。特に、日常的なフィードバックや声かけがあることで、「見てもらえている」という安心感が生まれ、次の行動につながりやすくなる。
企業の教育現場に求められる対応
以上のような背景を踏まえると、企業における育成のあり方も見直す必要があるのではないかと感じる。
・目的・期待値・評価基準の明確化
業務の目的や期待値、評価基準を明確にすることが重要である。何を目指せばよいのかが分かることで、不安が軽減され、行動しやすくなると感じる。
加えて、現場ごとの属人化を減らすために、期待値を「成果」「行動」「品質」のように分解して言語化しておくと育成のブレが小さくなる。
・短いサイクルでのフィードバック
日常的なフィードバックを通じて、現在の状況や改善点を共有してもらえることで、安心して業務に取り組むことができる。短いサイクルでのやり取りがあることは、成長実感にもつながりやすいと感じている。
例えば「週次15分の短い1on1」や「初期は途中経過の確認ポイントを先に決める」だけでも、過度な不安は減りやすい。
・成功体験の積み重ねと挑戦しやすい環境づくり
小さな成功体験を積み重ねることや、失敗を過度に恐れなくてもよい環境づくりも重要であると考えられる。挑戦しやすい環境があることで、結果として主体的な行動が増えていくのではないだろうか。特に最初の数か月は、難易度を段階的に上げる形で仕事を設計し、「何ができるようになったか」を言葉で返すことが有効だと感じる。
・対話と協働
対話を通じて意図や背景を共有することや、チームで支え合う仕組みも有効であると感じる。個人だけでなく、組織全体で学びを支える環境があることで、より良い成長につながると考えられる。
・Z世代理解を前提とした関わり方
Z世代の特性は、決して弱さではなく、これまでの環境の中で形成されたものである。その前提を理解したうえで、どのように関わっていくかを考えることが、これからの企業にとって重要なのではないかと感じている。
その際、「頑張れ」ではなく、どの情報を渡せば動けるか/どの頻度で見れば安心して進められるかといった“運用”に落とし込むことがポイントになる。
これからの育成に対して感じること
Z世代の育成について考える中で感じるのは、「世代の違い」というよりも、「育ってきた前提の違い」を理解することの重要性である。教育環境や社会の変化によって価値観や行動様式が変わるのは自然なことであり、その違いを前提として関わり方を考える必要があるのではないかと感じている。
また、デジタル環境に慣れていることや、情報収集に対する抵抗が少ないことなど、Z世代ならではの強みも多く存在する。こうした特性を活かしながら成長できる環境を整えることが、結果として組織全体の力を高めることにつながるのではないかと考えられる。
入社して間もない立場ではあるが、日々の業務を通じて感じる違和感や気づきは、今後の育成のあり方を考えるうえで一つの示唆になるのではないかと感じている。特に企業では、育成が各現場に分散しやすいからこそ、「任せ方」「フィードバック」「ナレッジ共有」の最低限の型を整え、組織と個人の双方にとって良い成長の形を模索することが、世代間のギャップを埋める近道になるのではないだろうか。
最後に、もし新卒・若手の立ち上がりに課題感がある場合は、まず「目的・期待アウトプット・判断基準・相談タイミング」が現場で共有されているかを点検するだけでも、状況は変わり始めると感じる。小さな整備の積み重ねが、個人の成長と組織の成果の両方につながっていくはずである。
参考文献
- 文部科学省(1998)「学習指導要領」
https://warp.ndl.go.jp/web/20250901094746/https://erid.nier.go.jp/files/COFS/h15j/index.htm - 苅谷剛彦(2012)『教育と平等』中央公論新社
- 山田昌弘(2017)『モテる構造-男と女の社会学-』筑摩書房
- 内閣府(2022)「令和4年版子供・若者白書」
この記事を読んだあなたにおすすめ!






