人事制度の相談で増えているのが「結局、いくら上げれば採用できるのか」「給与を上げれば定着するのか」という問いです。しかし、求職者は給与“だけ”で会社を選んでいるわけではありません。就職・転職に関する各種調査を見ると、会社選びは一貫して「待遇」「安定」「やりがい(成長)」の組み合わせで判断される傾向が確認できます。

本稿では、新卒・中途それぞれのデータを踏まえ、報酬制度を「給与以外も含むパッケージ」としてどう設計すべきかを整理します。

新卒の企業選択軸

新卒入社者の企業選択ポイントとして上位に挙がるのは、

  • 安定している会社
  • 自分のやりたい仕事ができる会社
  • 給料の良い会社

です。特に「安定性」「給料の良さ」は、約13年前の就活生と比較しても重視度が高まる傾向が見られます。

一方、「行きたくない会社」として挙げられやすいのは、

  • ノルマがきつそう
  • 転勤が多い
  • 暗い雰囲気
  • 休日・休暇が取れなさそう

といった項目です。

また、「楽しく働きたい」や「個人の生活と仕事を両立させたい」という意見が多く、新卒の意思決定では「生活の土台(安定)+仕事の納得感(やりたいこと)+処遇(給与)」が、同時に問われやすい構造になっていると推察されます。

中途採用における意思決定

転職活動のきっかけとして多い理由に、

  • 給与が低かった(25.5%)
  • 人間関係が悪かった(21.2%)
  • 仕事内容への不満(23.1%)
  • 会社の将来性への不安(20.3%)

などが挙げられます。
参考:20/119頁
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2025/03/tennsyokudoukoutyousa2025-1223koushin-.pdf

また、転職先を決定した理由では、

  • 給与がよい(25.9%)
  • 希望の勤務地である(25.7%)
  • 休日・残業が適正(22.2%)
  • 福利厚生が整っている(18.5%)
  • 転勤がない(17.5%)
  • 新しいキャリア・スキルが身につく(14.9%)

といった点が挙がります。
参考:31/119頁
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2025/03/tennsyokudoukoutyousa2025-1223koushin-.pdf

ここからも、求職者は「給与を含む待遇 × 安定性 × やりがい」をバランスで見ていることが分かります。

したがって、求職者は「給与を含む待遇×安定性×やりがい」をバランスで判断していると言えます。ここからは、その構造をより明確にするため、年代・性別・職種などの切り口から傾向を整理していきます。

属性別に見る意思決定の違い

年代別

年代別に見ると、50代では転職先の決め手として「希望の勤務地である」が他年代より10ポイント程度高い傾向が見られます。背景には、ライフステージ上、居住地を固定したい事情(住宅・家族・将来設計等)が影響している可能性があります。

一方、20~30代では「グローバルな仕事に就くことができる」「昇進・昇格がしやすい」といった、成長・挑戦に関わる項目が相対的に高い傾向も見られます。

ただし、その他の項目は年代によって大きく変わるわけではなく、転職の判断軸が「給与だけ」では説明できない点は、全年代に共通しています。

男女

男女を比較すると、女性の方が「希望の勤務地で働ける」「転勤がない(少ない)」を重視する割合が高く、全年代で10ポイント程度の差が見られます。

また、30代女性では「休日や残業時間が適正な範囲内で、生活にゆとりができる」が37%と高く、仕事と生活を両立できる条件が意思決定に影響しやすいことが示唆されます(背景として、育児・介護等の事情が影響している可能性があります)。

一方、差は大きくないものの、20~30代男性では「ジョブ型雇用である」を重視する割合が女性同世代よりやや高い傾向も見られます。

職種別

日々の働き方について

職種別で見ると、クリエイター・エンジニア職では「リモートワーク・在宅勤務が可能」「評価の透明性」を重視する割合が高い傾向にあります。

これらの職種は、案件単位での業務や社外での活動も多く、上司が日常的に働きぶりを直接把握しにくい環境になりやすいという特性があります。そのため、「どのように成果が評価されるのか」「自分の努力がどのように見られているのか」といった評価の納得感への関心が高まりやすいと考えられます。

つまり、働き方の柔軟性と評価制度の透明性は、セットで意思決定に影響している可能性があります。

キャリア観の違い

「技能工・建築・土木」では、「新しいキャリアを身につけることができる」や「現在のキャリアをこれまで以上に伸ばす」という理由が転職先の決め手になるという回答が低い傾向にあります。

これは、専門性が高く同業種への転職が多いことや、場数を踏む中で成長していく職種特性、資格・熟練がOJTで積み上がるといった職能的な考え方が前提にある結果だと推察されます。

これらをより深掘りするために、職種・業種ごとに転職の活動状況についても読み取っていきます。

ここまで見てきた通り、求職者が重視する要素は「給与」だけではありません。では、それらをさらに深掘りするために、職種・業種ごとに転職時の行動(どの範囲でジョブチェンジをするのか、どのような点で選考につまずくのか)を見ていきます。

キャリアチェンジ(業種)

転職時の業種選択(同業種か異業種か)を見ると、同業種での転職意向が特に高い業種がいくつかあります。具体的には「IT・インターネット」「機械・電子」「医療・介護・福祉」「流通・小売」「金融・保険」「不動産・建設」「運輸・交通・物流・倉庫」などで、同業種転職の希望が70%以上となっています。

この背景は一言では言い切れませんが、少なくとも次のような要因が影響している可能性があります。

  • 業界固有の知識(法規制、商流、専門用語、業務プロセス)が評価されやすい
  • 実務経験が“即戦力”として判断されやすく、異業種では評価されにくい
  • 資格・免許・業務経験の要件が、業界によっては参入障壁になりやすい

一方で、「生活関連」「商社」などでは同業種転職の希望が50%未満となっており、業界をまたぐ転職の余地が相対的に大きいことが示唆されます。断定はできませんが、職種スキルの汎用性(例:営業、企画、管理など)や、扱う商材・サービスが異なっても仕事の進め方が転用しやすいことが関係している可能性があります。

希望だけでなく実態(実際の転職状況)を見ると、「IT・インターネット」「医療・介護・福祉」は同業種転職が70%超と高水準で推移する一方、その他の業種では同業種転職が過半数に届かない、あるいは半数程度にとどまるケースも見られます。

このギャップは、「本当は同業種を望むが、条件が合わず異業種も視野に入れた」、あるいは「業種は変えても職種は維持する(同職種×異業種)の転職が成立しやすい」といった構造で説明できる可能性があります。

キャリアチェンジ(職種)

次に職種の観点で見ると、「医療・介護・福祉」「エンジニア」「技能工・設備・配送・農林水産」「管理・事務」などで、同職種での転職が多い傾向が見られます。

これも単純に「専門職だから」と決めつけるのは避けるべきですが、少なくとも職務上の基礎スキル・経験が明確で、採用側も“職種経験”を重視しやすい領域ほど、同職種転職に落ち着く傾向があると考えられます。

リスキリング

転職直前1年程度のリスキリング経験を見ると、「クリエイター」「エンジニア」は相対的に経験率が高い一方、「技能工」などでは低い傾向が見られます。

ここで注意したいのは、リスキリング経験率が低い=学習していない、とは限らない点です。技能系職種では、学習の中心が研修よりもOJT(現場での反復・習熟)になりやすく、本人の認識として「リスキリング」と回答されにくい可能性があります。
つまり、職種によって“学びの形(研修か、業務内の習熟か)”が異なると捉える方が妥当です。

また、「営業」「企画・経営」「管理・事務」「コンサルタント・専門職」では、一定の学習(勉強・研修)を行う割合が相対的に高い傾向も読み取れます。学習テーマとしては、マーケティングやデータ分析などが多くの職種で共通して増えている可能性があり、背景にはデジタル化や業務の高度化といった環境変化が影響していると考えられます(※ここは仮説)。

採用辞退要因

選考プロセスでの不成立要因を見ると、職種別に特徴があります。

「エンジニア」「サービス職」「クリエイター」では、スキルの不一致や、研修制度・育成の見通しの弱さが課題として挙がりやすい傾向があります。これは裏返すと、これらの職種では「入社後にスキルが伸びる設計(育成、学習支援、職務定義、評価の透明性)」が、給与と同等かそれ以上に意思決定へ影響しうることを示唆します。

逆に「コンサルタント・専門職」では、入社希望日の不一致、職場の雰囲気、給与など、働き方や条件面に関する要因が相対的に目立ちます。

この領域では、単に給与水準を上げるだけでなく、働くスタイル(稼働の裁量、評価・報酬の決まり方、チーム文化)まで含めて“納得できるか”が重要になりやすいと考えられます。

まとめ

求職者の意思決定は、給与という単一軸では説明しにくく、少なくとも「待遇」「安定」「仕事内容・成長」「働き方(時間・場所)」の複数軸で行われています。したがって報酬制度を考える際は、給与水準の見直しだけでなく、勤務地・転勤ルール、休暇・残業の運用、評価の納得性、職種別の育成・スキル形成支援まで含めて“パッケージ”として設計することが、採用・定着の両面で重要になります。

採用戦略に直結する観点として、既存社員に近い人材を採用したい場合は、社員ニーズに近い要望に応えられる施策を設計しやすく、採用後の関係性やキャリアイメージとの整合も取りやすくなります。

一方で、これまでと異なるタイプの人材を採用したい場合には、どのような処遇設計にするのか、既存社員との不和が生じる可能性にどう対応するのかが重要になります。

また、自社内に複数の職種が存在する場合には、職種ごとの処遇・制度設計の不整合をどう扱うかという論点も避けて通れません(この点は次回のコラムで扱います)。 

 

<以下、本コラムで使用した調査の引用元>
株式会社マイナビ「マイナビ2025年卒大学生就職意識調査」(調査期間:2023年10月1日~2024年3月17日)
(HP:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240416_74092/
株式会社マイナビ「転職動向調査2025年版(2024年実績)」(2024年12月調査)
(HP:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250312_92959/

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