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人事制度や育成体系の設計支援を日々行っている、経営コンサルタントが綴る「人事屋のひとりごと」。人事屋としての経営会議には出てこない“うっかり視点”を交えながら、最近の人事あるあるをひとつ語らせていただきます。
登場する組織や人物はフィクションですが、きっとどこかに実在しているようなリアルを込めてお届けします。
「うちも人的資本の情報開示が始まるらしくてさ」
某大手企業の人事部長が、コーヒー片手にぽつり。
……でた、“見える化の迷子”現象である。
人的資本経営を推進せよと言われ、データを集めよと言われ、可視化せよと上からは言われる。でも、いざ見える化してみると、「だから何?」の嵐が吹き荒れる。

スキルマップを描いて、人材育成の課題が霞んでいく?
この会社では、全社員のスキルをグレード制で点数化する仕組みを導入。
それ自体は悪くない。
問題は、「業務に必要なスキル」と、「中期経営戦略が求めるスキル」が、
まるで異なる世界線で語られていたことだ。
現場:「機械メンテのスキルが足りない」
経営:「生成AIやデータ分析スキルがないと将来ヤバい」
どちらも正しい。でも、“今の生産”と“将来の競争力”が交わらない。
なのに、同じスキルマップで点を並べて、平均スコアで語ろうとする。

「リスキリング=AI講座受講」問題
育成計画では“DX人材の育成”をうたう。
eラーニングでAIやPython講座を受けることをリスキリングと呼ぶようになった。
だが──
「正直、うちの現場では“リスキリング=業務外での宿題”って見られてる」
と、ある管理職が苦笑い。
なるほど。
ひとまず受講だけ済ませて、履歴上は「受講済」としておく。
でも現場での会話や提案には、何も反映されていない。
一番AIに学ばれているのは、学ぶ側の“逃げ方”かもしれない。
スキルの見える化が“裸の王様”をさらけ出すとき
人的資本開示で「育成投資額」「スキル偏差」「キャリア自律度」などを出す企業も増えてきた。
だが、数値はあくまで“現在の状態”を定量化したもの。
その裏にある「組織の期待」や「将来シナリオ」とつながっていなければ、ただの“数字の晒し上げ”だ。
「データを集めたけど、戦略に使えない」
「開示はしたけど、経営課題とはつながらない」
そんな状態は、“裸族の定量化”とでも呼びたくなる。
スキルの可視化は、“問い”とセットで
大切なのは、
「何を知りたいのか」
「誰に向けた問いなのか」
「その問いを通じて、何を動かしたいのか」
この問いなしに進む“可視化”は、空虚な作業になる。
人的資本経営とは、スキルやエンゲージメントを“測る”ことではなく、
それらを通じて“動かす”ことが目的のはず。

最後に、一言。
“見える化”って、見えないものを映す魔法じゃない。
もし今、スキルの見える化を進めているなら、次の3つだけ確認してみてください。
• 経営戦略の「いつ・どこ」に紐づくか?
• 見えたあと、何が変わる設計になっているか?
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