研修はやっているけれど……現場の「本音」とのギャップ

働く人材や働き方が多様化する中で、上司と部下の価値観の違い、特にZ世代との関わり方に頭を悩ませているベテラン社員や管理職の方が増えています。こうした「違い」から認識の齟齬(そご)や衝突が生まれ、それがハラスメント案として表面化してしまうことも少なくありません。

人事・教育企画の皆さまは、現場の状況に合わせて日々研修を企画されていることでしょう。法律に沿った動画を視聴したり、外部講師を招いてワークショップを行ったり……。
しかし、研修を実施した後、現場の様子を見てこんな風に感じることはありませんか?

  •  「研修はしたけれど、若手からの相談の声が止まらない……」
  •  「逆に管理職が怖がってしまい、必要な指導まで避けるようになってしまった」
  •  「一部の部署では、相変わらず昔ながらの厳しい指導が続いている」

まさに形だけの研修になってしまっている状態です。ルールを作ることはできても、社員の行動や意識まで変えるのは本当に難しいものです。今、私たち人事・教育担当に必要なのは、法改正の知識や事例を伝えること以上に、「どうすれば、社員が毎日気持ちよく働ける職場になるか?」という、“現場の変容とゴール状態を意識した学び”ではないでしょうか。

「あなたの成長のために」という無意識の指導アプローチ

ハラスメントの問題で一番難しいのは、「差別しよう」「わざときつく当たろう」と思っている人は、ほとんどいないということです。むしろ、部下の成長を誰よりも願っている、情熱的な上司こそ、知らず知らずのうちにハラスメントの入り口に立ってしまうことがあります。

想像してみてください。50代のベテラン営業部長、Aさんのケースです。 Aさんは自身の経験をもとに、「期待の新人Bさんに、早く一人前になってほしい」という一心で指導しています。Bさんのキャパシティが限界に近いと知りつつも、「苦労は宝だ」と新しい案件を次々に渡し、失敗すれば「どうして改善しないんだ」「もっと頑張れ」と、皆の前で叱咤激励します。

Aさんの中にあるのは、100%の親切心です。 しかしBさんから見れば、それは「断れない強制」であり、結果として萎縮や信頼関係の崩壊に繋がってしまいます。 ここに、現代のハラスメントの難しさがあります。「良かれと思ってやっていることが、相手にとっては苦痛になってしまう」。この無自覚なボタンの掛け違いをどう解きほぐしていくかが、私たち人事・教育担当が向き合うべき本質的な課題です。

ハラスメントを防ぐ「心の土台」と「コミュニケーションスキル」

では、どうすれば「良かれと思って」の空回りを防ぎ、部下と良い関係を築けるのでしょうか。それは、言葉選びなどのテクニック以前に、上司としての「心の土台(スタンス)」を整えることにあります。

上司が持ちたい「3つの心構え」

「謙虚」さ:自分は、絶対に正しいわけではない

「自分は全知全能ではないし、間違えることもある」。そう一歩引いて考えるだけで、部下への接し方は変わります。「俺の時代はこうだった」という正解を押し付けるのではなく、「今の時代、あなたはどう思う?」と問いかける余裕が生まれます。

 「尊敬」の念:一緒に働く仲間を、一人の人間として大切にする

部下を「動かす駒」ではなく、大切なパートナーとして思いやることです。相手の人生や価値観を尊重する気持ちがあれば、自然と無理な要求や心を傷つける言葉は出てこなくなるはずです。

 「信頼」する心:相手には、やり遂げる力があると信じる

「失敗するかも」と疑って細かく監視(マイクロマネジメント)するのではなく、「この人には力があり、正しいことをしようとしている」と信じて見守ること。信頼されていると感じた部下は、自ら考え、伸び伸びと力を発揮してくれます。

この姿勢を形にする「3つのコミュニケーションスキル」

この「謙虚・尊敬・信頼」を具体的にどう行動に移すか。ここで初めてスキルの話に入ります。

 「傾聴(けいちょう)」:心の声を聴く

ただ話を聞くのではなく、相手が何を感じているのか、言葉の裏側にある「本当の気持ち」に耳を傾けます。「なるほど、そう考えていたんだね」と受け止めるだけで、部下は尊重されている安心感を得ます。

 「共感(きょうかん)」:同じ景色を見てみる

「それは甘えだ」と切り捨てるのではなく、「それは大変だったね」と相手の靴を履いて歩くように寄り添います。共感がある場所に、ハラスメントというトゲは育ちません。

 「アサーション」:さわやかに、でもハッキリ伝える

相手も自分も大切にしながら、意見を伝えるスキルです。感情的に怒鳴ったり我慢しすぎたりせず、「私はこうしてほしいと思っているけれど、あなたはどうかな?」と対等にキャッチボールをすること。これができると、指導は「攻撃」ではなく「対話」に変わります。

こうした「心の土台」と「スキル」を、理論と実践を通じて教育し続けることで、上司の熱意はハラスメントではなく、部下の心を動かす「本当の指導」としてまっすぐ相手に届くようになります。

最後に

ハラスメント教育の本当のゴールは、誰かを捕まえることでも、ルールでがんじがらめにすることでもありません。「一人ひとりの個性が尊重され、お互いを大切にしながら、いきいきと働ける職場」を作ることです。

人事・教育に携わる私たちが目指したいのは、研修が終わった後の「お疲れ様でした」という声ではありません。翌朝、会社に来た人たちが「よし、今日はこれを意識してみよう」「部下との接し方に注意してみよう」と、“職場に新しい風が吹くきっかけ“を作ることです。 そんな「現場が変わる」研修のあり方を、今一度、私たちと一緒に考えてみませんか?

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