大学卒業後に奨学金返済が始まるものの、返済が困難な状況にある方が増加しています。賃金の停滞や非正規雇用、会社を辞めてフリーターになるなど、返済が難しくなる理由は多岐にわたります。
このような状況で、親が奨学金返済を肩代わりする場合、贈与税が課されるのかについてみていきます。
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置
直系尊属(親や祖父母)から教育資金の一括贈与を受けた場合、一定の条件を満たすと贈与税が非課税になる制度があります。この制度が奨学金を親に肩代わりしてもらう場合に適用されるかを確認します。
まず、直系尊属という条件は満たします。次に、非課税措置の対象となる受贈者は、平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間に30歳未満である必要があります。この年齢条件を満たせば、制度の対象となり得ます。しかし、教育資金の非課税措置を受けるためには、金融機関との間で教育資金口座を開設し、教育資金非課税申告書を提出する必要があります。さらに、教育資金の支払い時に領収書などを金融機関に提出することが求められます。
教育資金には、学校の入学金や授業料、学用品費用などが含まれますが、奨学金の返済は教育費用ではなく、教育を終了した後の返済義務であり、日本学生支援機構への支払いは非課税対象外です。そのため、この制度に基づいて親が奨学金を肩代わりしても、贈与税の非課税対象にはなりません。
通常の贈与税について
通常の贈与税は暦年課税といい、毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除した残額に対して課されます。税法上、親子間などの扶養義務者からの生活費や教育費に充てるための贈与は非課税ですが、奨学金返済をしている方が親の扶養から外れている場合、非課税とはなりません。仮に親の扶養に入っていても、奨学金返済が生活費や教育費と認められなければ、課税対象です。
例えば、310万円の奨学金返済を親が肩代わりする場合、基礎控除額の110万円を超える200万円が課税対象となり、税率10%により20万円の贈与税が発生します。これは返済を肩代わりしてもらっても、納税資金に困る可能性があることを示しています。
暦年課税の活用
親が奨学金返済を肩代わりする際に、年間110万円以下の範囲で数年に分けて贈与を受けることで贈与税を回避できます。例えば、毎年110万円以下の贈与を受けて繰り上げ返還する方法です。繰り上げ返還により、利息負担を減らし、返還期間を短縮できます。
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金は、全額または一部の繰上返還が可能です。一部繰上返還をする場合、毎月の返済額は変わらないものの、利息負担が減額され、繰り上げた分の返還期間が短縮されるのがメリットです。繰上返還には手数料はかかりません。贈与税の税率は高率で、納税額も高額になるため、全額返還にこだわらず、一部繰上返還をしたほうが支出額を抑えられます。なお、奨学金の繰上返還は、返済に使っている口座からの振り替えによって行われます。そのため、親からの贈与額で繰上返還をしたい場合、その口座に入金してもらうか、親から受け取ったお金を振替口座に入金することが必要です。
相続時精算課税制度の利用
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子や孫に贈与する際に利用できる制度です。この制度では、基礎控除額110万円を超える金額も含め、最大2,500万円までが非課税となります。ただし、親が亡くなった際に相続税と一緒に精算されるため、相続財産の状況に応じて相続税が課される可能性があります。
例えば、110万円を超える奨学金返済額を全額繰上返還したい場合、親が60歳以上であればこの制度の利用も可能です。ただし、事前の手続きが必要で、一度この制度を利用すると親が亡くなるまで、この制度を利用し続ける必要があり、相続時に精算されることをよく確認しておく必要があります。相続財産の額などによっては相続税がかかる場合があります。
連帯保証人による返済について
奨学金申込時に親が連帯保証人となっている場合、返済が遅滞すると連帯保証人に通知が行きます。親が肩代わりする場合でも、本人に返還してもらわなければ贈与税の対象となる点に注意が必要です。
返還支援(代理返還)制度の利用
親族ではなく、企業が従業員の奨学金を代理で返還する制度を利用した場合にはどうなるでしょうか。個人が法人から贈与により取得した財産は一時所得として所得税が課税されるため、贈与税は非課税となります。
また、この所得税についても日本学生支援機構(JASSO)の奨学金代理返還制度を利用して、従業員ではなくJASSOへ直接返済金を送金した場合には給与と返還額が区分されて奨学金返還であることが明確になるため、奨学金を返済している従業員の所得税は非課税となります。
企業が福利厚生の一環として独自で設定している返還支援制度の場合、特定の条件下で課税対象となることも考えられるため、具体的な税務処理方法や非課税扱いの条件は総務部や人事部など担当部署への確認が必要です。
まとめ
奨学金返済を親が肩代わりする場合、贈与税の基礎控除額110万円を超えると贈与税が発生します。一方、毎年110万円以下の範囲で贈与を受けることで、贈与税を回避しながら繰り上げ返還することが可能です。この方法を活用することで、高額の贈与税を避けつつ、効率的に奨学金返済を進めることができます。
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