2023年に入り大きく注目を集めている、年収の壁への対応。よく報道されているものの、具体的にどのようなことが行われるのか、企業側としてどのような理解をしておくべきなのか、はっきりわからないという人も少なくないでしょう。そこで本記事では、年収の壁の概要とともに、年収の壁の対象拡大についてどのような施策が行われるのかを解説します。

年収の壁とは?

年収の壁とは、配偶者を持つ人が扶養によるさまざまな控除などを受けられる年収ラインを指す言葉です。このラインを超えると扶養から外れ、これまで受けてきた控除などが受けられなくなることから、手取りが減ります。このラインが壁と表現されているものです。年収の壁は控除などの内容によって、次のような種類が存在します。

106万の壁

106万円の壁とは、従業員が101人以上の事業所に雇用された状態で、年収106万円以上、かつ週の所定労働時間20時間以上・2ヶ月以上の継続雇用などの条件を満たした場合、配偶者の扶養から外れて社会保険に加入しなければならないというものです。保険料の支払いが新たに発生するため、年収の額によっては106万円を超える前より手取りが少なくなります。

130万の壁

130万円の壁とは、従業員数や雇用状況などにかかわらず、年収130万円を超えると配偶者の扶養から外れ、社会保険に加入しなければならないというものです。こちらも社会保険料の支払い発生により、年収額によっては壁を超える前より手取りが減ります。

その他の年収の壁

先述した年収の壁は社会保険に関するものですが、このほかに税法の控除に関わる年収の壁もあります。具体的には100万円・103万円・150万円・201万円です。100万円の壁は住民税課税のボーダーラインであり、これを超えると住民税が発生します。103万円の壁は所得税課税のボーダーラインで、超えると所得税の納付が必要です。150万円の壁は、さまざまな税金の計算をする際の配偶者特別控除の額が減り始めるラインのことです。201万円の壁は、配偶者特別控除が受けられなくなるラインを表しています。

向上

年収の壁を巡る動き

前の項目で説明した年収の壁ですが、壁を超えることによる手取り減を回避するため、敢えて壁を超えない範囲に年収を収めている人も多く見られる現状がありました。しかし、特に年末付近になると年収の調整のために、パートのシフトを減らすなど働き控えをする人が多くなり、雇用先で人手不足に陥るという問題も発生しています。近年は社会全体で労働力不足が深刻化しており、どのようにマンパワーを確保するかが大きな課題となっていました。そこで、政府は年収の壁を見直す方針を表明したのです。具体的に見直しの対象となったのが、社会保険料に関連する106万円の壁と130万円の壁。これは、2025年に実施予定の年金制度改正時までのつなぎ措置としての位置づけです。2023年10月から、施策が本格的に動き始めています。

年収の壁に対する施策内容

それでは、年収の壁に対する具体的な施策内容を見ていきましょう。今回の施策は、「年収の壁・支援強化パッケージ」としてまとめられており、次のような措置が行われます。

106万円の壁への対応

年収106万円を超えた従業員に対し、社会保険に加入しても手取りが減らないような対応を実施した事業所に対して、対象の従業員1人につき、最大50万円の支援が行われます。そしてこの支援は2種類の対応によって構成されます。1つは「キャリアアップ助成金 『社会保険適用時処遇改善コース』」の新設です。現行でもキャリアアップ助成金の制度が運用されていますが、この中に新しく106万円の壁に関するコースを設置し、当てはまる従業員1人につき、最長で3年間の助成金支給を行います。コースの中身は、社会保険適用促進手当や賃金のアップを行う「手当等支給メニュー」、週の所定労働時間を延長する「労働時間等延長メニュー」の2段構えになっています。106万円の壁への対応2つ目は「社会保険適用促進手当」です。106万円を超え新たに被用者保険適用となった従業員に対し、社会保険適用促進手当をする場合、保険料の本人負担額を上限とし、最長で2年間、標準報酬月額の算定から手当を除外できるというものです。

130万円の壁への対応

130万円の壁への対策としては、雇用先の事業主が人手不足や一時的な収入増だと認めた場合に限り、年収130万円を超えても被扶養者の認定を受けられるという内容です。ただし、この一時的な130万円超えの認定は、連続2年までとされています。

配偶者手当への対応

年収の壁への対応を実施することにより、企業で支給している配偶者手当の見直しなども必要になると考えられます。そこで政府は、企業が配偶者手当の見直しをスムーズに進められるよう、配偶者手当の在り方の検討に関する資料を作成・公表しました。厚生労働省のサイトに掲載されており、フローチャートなどを用いながら見直し手順について示されています。

年収の壁の支援強化パッケージに関するよくある疑問

最後に、年収の壁の支援強化パッケージについて、よく見られる疑問を紹介します。疑問の中には現状ではっきりした動きが不明なものもあり、今後もつぶさに状況を確認していく必要がありそうです。

いつからの年収が対象になるの?

政府により年収の壁の対策方針や支援強化パッケージなどは発表されましたが、具体的な取扱いについてはまだ示されていません。そのため、保険事業者も具体的取扱いが発表されてから、はっきりした動きを固める模様です。すなわち、いつからの年収が措置の対象になるのかも含めて、詳しい運用については今後の発表を待つことになります。

さらなる対象拡大の可能性はあるの?

今回の年収の壁対策によって、壁に関係する年収の対象が拡大し、就業調整を意識せずとも良くなります。このような年収の壁にまつわる対象拡大がずっと継続して行われるのか気になっている人も多いでしょう。結論から言えば、この施策はいつまで継続されるのか、現時点でははっきりしていません。先述した通り、2025年の年金制度改正までのつなぎ措置なので、2年後には何らかの区切りが設けられるのではという見方もされています。しかしあくまで推測のひとつとして言われていることに過ぎず、今後どのような形でこの対策が展開されていくのかは注視が必要です。

ほかの年収の壁に対する施策はないの?

今回の支援強化パッケージで対策される年収の壁は、社会保険料の加入ラインである106万と130万円だけが対象です。前の項目で紹介した通り、税金に関するほかの年収の壁も存在しますが、現時点では対象拡大の対策は発表されていません。従来通りの取扱いになるので注意しましょう。

対象はパート・アルバイトだけなの?

今回の支援強化パッケージの対象になるのは、パートやアルバイトなど事業主に雇用されている人だけが対象なのか、自営業者は対象にならないのかという疑問も多く見られます。また、扶養控除の対象にならない単身者にフォローがないのは不公平感が大きいと不満を持っている人も少なくないようです。こちらの対象についても現時点ではっきりとした運用は示されていません。ただし、政府は単身者や自営業者が抱える不公平感をフォローできるような経済対策も含めて、10月中にとりまとめる方針のようです。

年収の壁への対応に関する情報はこまめにチェックを

年収の壁への対応で、社会保険に関する対象拡大がある程度実現するため、今後就業調整による人手不足は一定レベル解消されると見込まれます。ただし、この施策に関しては運用の仕方や見通しなど、現時点で明らかになっていない部分も多いため、逐次情報を確認していく必要もあります。常に最新の情報をチェックし、企業の運営にしっかり反映させましょう。

この記事を読んだあなたにおすすめ!

こちらの記事もおすすめ!
お役立ち情報
メルマガ無料配信

お役立ち情報満載!ピックアップ記事配信、セミナー情報をGETしよう!

人事のプロが語る、本音のコラムを公開中

人事を戦略に変える専門家たちが様々なテーマを解説し、"どうあるべきか"本音 で語っている記事を公開しています。きっとあなたの悩みも解消されるはずです。


お役立ち資料を無料ダウンロード
基礎的なビジネスマナーテレワーク規定、管理職の方向けの部下の育て方評価のポイントまで多種多様な資料を無料で配布しています。ぜひご活用ください。