2018年の労働基準法改正により、時間外労働の上限規制が設けられていましたが、建設業界は人手不足などの問題から猶予を設けられていました。そのため、建設業界に携わる人たちも働き方改革による時間外労働の上限規制について理解しなければいけません。そこでここでは、2024年に行われる建設業界における労働基準法の改正について解説します。
時間外労働の上限規制とは?
かつて時間外労働に上限規制はなく、いつまでも残業や休日出勤することができました。制限がないといくらでも残業できるので、労働者からするといくらでも残業代を稼げるというメリットがありますが、働きすぎて体を壊すリスクもあるでしょう。時間外労働に規制が設けられていないことで、平成に入ってから実際に体を壊してしまったり、過労死に至ってしまったりするケースがメディアに取り上げられて社会問題となりました。そこで2018年の働き方改革のタイミングで労働基準法が改正されて、この際に労働時間の制限が設けられました。そして2019年に大企業、2020年からは中小企業でもこれが適用されました。
2018年の労働基準法改正で何が変わった?
労働基準法において、労働時間は1日8時間として週5日で40時間が上限と定められています。そして基本的に残業はNGで、労働者との36協定にて時間外労働に関する項目を設けていれば、残業が可能となり、この段階では月45時間・年間360時間以上の残業が可能となります。ただ、この制限は行政指導の対象となるだけでした。また特別条項付きの36協定を結べば、実質残業に対する制限がないという状況でした。
そして2018年の改正ではこの労働時間の制限が設けられるようになりました。まず月45時間・年間360時間の制限に関しては遵守しなかった場合、6ヶ月間の懲役もしくは30万円の罰金と、行政指導ではなく法律による処罰を受けることになります。また、特別条項付きの36協定を結んだ場合も複数月の平均80時間、月100時間以内、そして年720時間が上限とこちらも法律による制限が設けられました。
建設業界の2024年問題とは
2018年に労働基準法の改正が行われ、時間外労働の上限規制が設けられましたが、一部の業界はすぐに対応できないとして例外扱いとなりました。建設業界もその1つであり、この労働基準法改正法の適用が2024年まで延期されています。しかしこの2024年までに建設業界は解決しなければいけない問題をたくさん抱えています。それでは建設業界の2024年問題とはどんなものなのか見ていきましょう。
深刻な人材不足
どの業界も人材不足が問題となっていますが、建設業界はそれが特に顕著な業界です。少子高齢化によってそもそも働き手の数が減っているのはもちろん、特に都市部は職業の選択肢が広がったことで建設業界を選ばない人も増えています。
長時間労働の常態化
建設業界は下請け構造ができあがっており、万が一納期を守れないと損害賠償が発生してしまいます。それ故に納期に関する取り決めが厳しく、建設業界では長時間労働が常態化しています。しかも人材不足によって、長時間労働は年々深刻になっています。実際に2020年に国土交通省が実施した調査によると、週休2日を実現できている企業は2割以下、その企業のうち週休1日すら実現できていない企業は4.5割にも至っています。
労働時間が把握できない管理体制
建設業界では労働時間が把握しきれていない問題も深刻です。一般企業はタイムカードを用いて出社・退社時刻を管理していますが、建設業界の場合従業員によって勤務地も勤務時間も異なることが多く、労働時間を把握しにくいのが現状です。そのため虚偽の労働時間を申告するなどの不正も起こりやすくなっています。加えて先ほど解説した通り、建設業界の下請け構造によって、納期を守れなかった場合に下請け側が損害賠償を支払わなければいけません。しかし建設業界の仕事は天候に左右されます。しかも特に梅雨の時期は雨のせいで工事が止まってしまうことも多いですが、その状況でも納期を守らなければいけません。これによって労働者の過剰労働よりも納期を守ることを優先するという問題も発生しています。このように健全にマネジメントが行われていない企業が多く、労働基準法遵守のためには労働時間に関するルールを遵守する風潮を作らなければいけません。
2024年の改正で建設業界の労働に関するルールはどう変わる?
2024年4月からの労働基準法の改正により、建設業界でも一般企業と同様、原則月45時間以内、年間360時間以内の時間外労働の制限が設けられます。そして特別条項付きの場合は月100時間以内、2ヶ月〜6ヶ月の平均時間外労働時間が80時間以内、年間720時間以内の制限となりました。また、時間外労働時間が45時間を超えるのは年6回までというルールも適用されます。ただし、緊急建設業界の仕事は世の中のインフラを支える仕事であり、災害時など緊急で建造物を造らなければいけないこともあるでしょう。そのため、災害時など緊急時においては月100時間以内、2ヶ月〜6ヶ月以内の平均80時間以内というルールは適用されなくなります。
2024年問題に向けて建設業界がすべきこととは
建築業界でも労働基準法の改正法が適用される時期が近づいていますが、今のままでは簡単に実現できないのが現状です。そこで建設業界の労働環境に関しては、国土交通省が「建設業働き方改革加速化プログラム」を発表し、これに基づいてアクションを起こすべきと言えます。それでは、建設業働き方改革加速化プログラムを中心に、2024年問題に向けて建設業界がすべきことについて解説します。
厳重な労働時間の管理
建設業界において労働時間が適切に管理されないことに関しては、これまでのようにアナログで管理するのではなく、PCやIT機器を用いた管理を行うことが推奨されています。IT機器を使えば労働時間を管理する業務の人手が足りていなくても手軽に従業員全員の労働時間を把握できるようになるでしょう。また、打刻は自己申告ではなく、必ず従業員がタイムカードを切るようにし、不正な労働時間の改ざんができないようにするなど、ルールの厳格化も必要です。
無理のない工期設定
建築業界では納期を守るために、納期が近づけば近づくほど残業や休日出勤が多発しがちとなっています。そこで工期に余裕を持って作業をしていれば、建設業界も週休2日など一般企業のような働き方を実現できるようになるでしょう。ちなみに国土交通省では時間外労働が発生しない働き方を実現するために、「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を発表しています。そのため、企業はこれに基づいた工期設定を意識する必要があるでしょう。ただし、下請け構造のせいで元請け企業に対して下請け企業は強く提案をできない風潮があります。したがって、業界全体で下請け側も無理のない工期設定ができるような雰囲気づくりが必要でしょう。
IT機器の導入
建設業界でもIoTやAIなどを導入する企業が増えてはいますが、それでもまだ普及が進んでいないのが現状です。建設業界は少子高齢化などによって働き手が減っており、従業員1人あたりの業務負担も年々大きくなっているという問題も抱えています。そのため、IT機器を積極的に活用して残業を減らす工夫も必要でしょう。
建設業界も2024年から時間外労働のルールが改正!
2024年4月をもって、建設業界でも労働基準法の改正案が適用され、時間外労働の上限などに関するルールが厳しくなります。しかし、「労働基準法を守っていると納期を守れなくなってしまう」と困っている建設業者がたくさんいるのも事実です。したがって、2024年の改正版労働基準法の適用に向けて、すぐにでも労働者の労働時間や労働環境の管理体制を見直すことが必要となるでしょう。
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