
なぜ世代間で「伝わらない」のか?
「若手が何を考えているのかわからない」「指示しても動いてくれない」。
近年、経営層やマネージャーからこのような声を聞く機会が増えています。SNSでも、若手と上司とのすれ違いがネタとして頻繁に共有されています。
これは単なる個々の性格の違いではなく、生まれ育った社会環境=情報との関わり方の違いが思考や価値観を変えている、いわゆる「世代間ギャップ」の構造的問題です。
この違いを理解しないまま、従来のマネジメントやコミュニケーションを続けても、摩擦や誤解は解消されません。本稿では、中高年と若手の「情報の扱い方」と「思考様式」の違いをひもときながら、指示・依頼の伝え方の最適化=コミュニケーションスキルの再構築を考えます。さらにそのスキルは、AI時代のマネジメントスキルとも高い親和性を持つことにも触れていきます。
情報に飢える中高年ー探索思考の原点
まずは中高年世代が育ってきた社会環境から見てみましょう。
この世代にとって、情報とは「自分から取りに行くもの」でした。固定電話、ポケベル、初期の携帯。情報取得にはコストも手間もかかり、インターネットの利用もパケット通信や従量課金が前提の時代。
「使いすぎると月額数万円」など、今では信じられない情報制限の中にいました。
だからこそ、情報に対して常に“飢え”の状態。必要な情報を得るには自ら動くしかなく、ブログや掲示板、検索といったインプット・アウトプットの文化が形成されました。
この背景には、当時のビジネスの構造も大きく関係しています。
マネジメントはトップダウンが基本で、曖昧な指示でも「はい、わかりました!」とすぐに動くことが評価される時代。目的を尋ねることは生意気と見なされることもありました。しかし、やがて脳死的に働くだけでは限界が来ます。情報に飢えた中高年たちは、「今のやり方でよいのか?」と自問し、情報収集によって自身の思考をアップデートするようになります。このような過程で形成されたのが、「まず行動し、後から情報を取りに行く」“探索思考”です。
情報に溺れる若手ー目的思考の合理性
一方で、若手世代はどうでしょうか。
彼らは物心がついた時には、スマホもSNSも当たり前の環境で育っています。情報は“探しに行く”ものではなく、“勝手に押し寄せてくる”ものになりました。
SNSのタイムライン、アルゴリズムによるレコメンド、ショート動画の連続再生。知りたい情報も、知りたくなかった情報も、常に脳を刺激し続けてきたのです。その結果、脳が“情報肥満”になりやすく、若手は無意識に「不要な情報をいかに削ぎ落とすか」という情報ダイエット思考、つまり“痩せたい”脳の文化を身につけてきました。
それはコミュニケーションにも影響しています。
メールからチャット(LINE)へ移行したことで、やり取りは簡略化・即応性が重視され、「了解」は「り」に、「お疲れ様です。」の句点にさえ“圧”を感じるようになった社会が生まれました。
このような社会環境が、若手に「目的が明確でない行動はムダである」という価値観を育てました。彼らは、効率的に目的を達成したいのです。
生成AIの登場により今後は今以上に効率的な価値観が強まっていくことは、容易に想像ができます。
現場で起きる“思考の衝突”
私自身も過去に、ある若手メンバーに「この資料、作っておいて」と依頼したところ、毎回「目的は何ですか?」「これは誰に使うのですか?」と聞かれた経験があります。最初は「細かいな」と感じましたが、後から気づきました。
彼は、目的が曖昧なまま資料を作ってしまうと、「修正→やり直し→残業」のムダが発生することを見越して、先に無駄を防ごうとしていたのです。
これはサボっているのではなく、コストパフォーマンス(コスパ)とタイムパフォーマンス(タイパ)を最大化する合理的思考に基づいた行動です。そしてこの思考は、ライフスタイル選択にも表れています。
リモートワークやライフ・イン・ワークを重視する傾向も、合理性と再現性を重んじる“目的思考”の延長線上にあるのです。
指示出しの質が組織の生産性を変える
では、マネージャーや経営層がどうすべきか。
それは、若手の目的思考に応える形で業務の背景や意義、期待するアウトカムを明確に伝えることです。すなわち、5W1Hを用いて、指示内容を具体化し、目的に基づいた行動を促すスキルが求められます。
このようなロジカルな指示出しは、単に若手を動かすためだけではありません。優れたマネージャーは、優れた問いを立て、相手の理解と納得を引き出す構造を持っているのです。
実はこれ、AIにも必要なスキルです
今、ChatGPTをはじめとする生成AIが、ビジネスのあらゆる場面で使われ始めています。その活用において重要なのが、「プロンプト(指示文)」の精度です。AIに適切なアウトプットを求めるには、目的・背景・前提条件・出力形式などを論理的に構造化し、わかりやすく伝える必要があります。
これはまさに、マネジメントにおける「質の高い指示出し」と同じスキルです。今後のマネージャーには、人に対してもAIに対しても、「思考のフレームを渡せる力」=ロジカルコミュニケーション能力が問われてくるでしょう。
おわりに
飢えていた中高年、痩せたがる若手。
情報に対する態度が違えば、行動の仕方も、評価の基準も異なります。
しかし、そこに優劣はありません。違いを理解し、補い合うことが、組織の成長につながります。今こそ、世代を超えた対話のフレームを再設計する時代です。そしてその第一歩が、「指示・依頼の伝え方を変えること」なのです。
実務に活かすために
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