人事制度を新たに構築したい、現状の企業状況に合わせて整備し直したいというときには本で基礎から学ぶのが良いと考える方は多いでしょう。人事制度に関する良書は多数発行されていて、人事担当者や経営者なら読むべきと言われる本もあります。ただ、本から学ぶのが本当に良いのでしょうか。この記事では本で学ぶ良し悪しを明らかにした上で、制度構築のポイントを解説します。
人事制度とはそもそも何か
人事制度の構築をするために本で学ぼうかと迷っているときには、まず人事制度とはそもそも何かを理解するのが大切です。人事制度とは従業員の管理全般に関する制度を指します。特に制度を確立するときに焦点が置かれるのが従業員の処遇に関するルールの策定です。人事評価制度とひとまとめにされることもありますが、細分化すると等級、評価、報酬に分類することが可能です。
等級制度は代表取締役、部長、課長、主任などといった等級を設けて、等級ごとに企業における役割を定める仕組みです。個々の従業員に何が求められているのかを自覚させて役割を果たすように促すのが目的です。
評価制度は等級制度によって定められている役割を従業員が果たしているかどうかを見極めるルールを定式化する仕組みになっています。いつどんな方法で誰が評価するかを定め、客観的な評価によって従業員が納得する体制を整えること、評価体系を明確化することで効率的に評価を進めることが主な目的です。
報酬制度は等級制度と評価制度によって出てきた評価結果に基づき、給与やボーナスなどを決めるルールを定めています。等級に応じた基本給と評価に基づく追加報酬とで確定するのが一般的です。報酬制度を明確にすることで従業員は何をすれば収入を増やせるかを理解します。起業にとって必要な人材が育つように報酬制度を整えることで事業を推進できるのが特徴です。
このように人事制度は定式化されています。人事制度を整えるのは人材を活かして成長させることで、適材適所の人員配置をしたり、従業員のモチベーションを上げたりすることにもつながる重要なものです。人事制度を整える上で本にはどのようなメリット、デメリットがあるのかをこの前提知識に基づいて考察してみましょう。
人事制度を本から学ぶメリット
人事制度を本から学んで構築を目指すのにはどのようなメリットがあるのでしょうか。まずは良書を手に取る魅力を確認していきましょう。
体系化されていて全貌がわかる
本には人事制度について上述したような体系的な内容がまとめられているのがメリットです。人事制度の基礎から学び、全貌を理解したいときには適しています。全く人事制度について知識がないときには教科書としても使われている良書を読むと効率的に学習できるでしょう。
歴史や過去の事例を確認できる
人事制度に関する本には歴史や過去の事例がまとめられているのがメリットです。人事制度のあり方は時々刻々と変わってきています。仕事に対する考え方が変化している影響で、評価の仕組みは特に大きな変貌を遂げてきました。過去には斬新な評価制度を取り入れて成功した事例もあれば、失敗した事例もあります。過去の人事制度のケーススタディが書かれている本は多く、成功や失敗から学んで制度を考えることが可能です。
基本に沿った制度構築ができる
人事制度についての詳しい本を利用すると人事制度の基本に則った形で制度構築ができます。基本を重視するのは多くの人に受け入れてもらうために重要なポイントです。自分では客観的な視点で構築できたと思っている制度も、他の人が見ると偏見に満ちていると思われてしまうこともあります。何が標準的なのかを理解して制度構築をすれば経営者も従業員も納得してくれるでしょう。
人事制度を本から学ぶデメリット
人事制度を本から学ぶのにはデメリットもあります。どんな良書を手に取ったとしても問題点があるので、何に注意したら良いかを理解しておきましょう。
最新のトレンドはわからない
本を利用して人事制度について学ぼうとしても最新のトレンドはわからないのがデメリットです。本に書かれている内容はどんなに新しくても数ヶ月前までのことです。良書と呼ばれている本は数年前に出版されたものが多く、最新の人事制度についての情報は盛り込まれていません。働き方や報酬に対する意識の変化は速く、新しい人事制度のあり方も登場してきています。そのトレンドを把握するのには使いづらいので注意しましょう。
著者によって意見の偏りがある
人事制度の本を執筆している人は大勢います。著者によってどんな人事制度が良いかの見解が異なり、意見の偏りがあるのがデメリットです。どの本を手に取ったかによって人事制度のあり方について偏見を持つ可能性があります。客観的な内容なのか、著者個人の意見なのかを慎重に見極めながら読むことが大切です。
自社に合う人事制度を見出せるかとは限らない
本に書かれている人事制度のあり方は必ずしも自社に合うとは限りません。どの企業でも同じ人事制度を運用しているわけではないのは、事業内容や社風などによって適切な人事制度が異なるからです。叩き台となるルールを策定するために本を参考にするのは良いかもしれませんが、そのまま自社で運用を続けても人材を最大限に生かせるとは限りません。
人事制度を構築するときのポイント
本から学ぶのにはメリットもありますが、デメリットを克服しなければ優れた人事制度を確立できないでしょう。ここでは本から学ぶデメリットを考慮して人事制度を構築するときのポイントを紹介します。
インターネットで最新の動きを把握する
本から得るのが難しい最新のトレンドはインターネットから入手しましょう。公開された内容ならすぐにブログなどに取り上げられるので簡単に情報を手に入れられます。
人事制度構築による目標を明確化する
目標を明確にするのは人事制度を構築する上で欠かせないポイントです。本には一般的な人事制度の目的だけでなく、具体的な事例を通して何を目標にして制度を整えたかが書かれています。自社の課題と照らし合わせることで、どんな制度にすれば解決できるかが明確になるでしょう。本には基礎的な内容と事例の情報が豊富なので、メリットを生かして目標を吟味するのが大切です。
コンサルティングを活用する
本から得られる情報にインターネットの情報を加えたとしても、自社に合う人事制度をスムーズに確立できるとは限りません。現実的には他社の事例を参考にしてまず運用を始めてみて、年に一回くらいのペースで改善を図っていくケースが多くなっています。しかし、人事制度を構築した後、改正があると管理職も従業員も動揺します。等級制度によって役割が明確化されたはずなのに毎年変わってしまうのでは何を目指して働くべきなのかが見えなくなるでしょう。評価制度によって部下の評価を任された管理職としては、何度も評価基準が変わると戸惑うだけでなく、従業員に報酬や等級について説明をするのが大変になりがちです。
これから人事制度を構築しようと決断したときには、可能な限り改正をせずに済むように的確な内容にすることが重要です。人事のコンサルティングを利用してノウハウを提供してもらうと良いでしょう。コンサルティングを受けると本やインターンネットからはわからない情報を得られます。また、公開されていない他社事例も考慮してもらえるので、相談してみると自社に合う人事制度を整えやすくなります。
人事制度は本だけに頼らずに構築しよう
人事制度について良書が多数あるのは確かですが、本だけでは最新のトレンドの情報がなく、公開されていない情報を活用できない問題もあります。インターネットによる情報収集で最新の動きを捉え、コンサルティングも利用して他社の情報も加味した制度構築をしましょう。自社に合う制度を構築するためには本だけに頼らずに様々な情報源を活用するのが大切です。